こんにちは、ガブです。
独立すると決めた人が、最初にぶつかる壁。それは仕事の取り方ではありません。「どう辞めるか」です。
管理技術者になっている業務があるんです。途中で辞めると言ったら、会社にも発注者にも迷惑がかかりますよね……。
責任のある立場ほど、言い出しにくいですよね。迷惑をかけたくないと思うのは、それだけ真面目に仕事をしてきたからだと思います。
読み終えたときには、「いつ言おうか」と悩むのをやめて、手元の業務から辞める日を逆算できるようになっているはずです。
僕も、独立すると決めてから会社に言うまで、しばらく黙っていました。そのころの話から始めます。
独立すると決めたら、すぐ会社に言うべき?
決めてから、黙って片付けていた
独立することは、会社に伝えるよりずっと前に決めていました。辞めたかった一番の理由は、時間です。残業が当たり前で、家族と過ごす時間が足りませんでした。家族のことで、もっと時間を使いたい事情もありました。そのあたりは、年商3,000万円の記事に書いています。
関連記事:技術士で独立して年商3000万円|10年続けた現実
ただ、決めたからといって、すぐに会社へ言う必要はないと思っていました。先にやったのは、手元の仕事を片付けることです。
当時の僕は、会社で構造系のリーダーのような立場でした。業務のほとんどを管理技術者として持っていて、年に10本ほど受け持ち、年間で約6,000万円の業務を回していました。辞める前提で、それを1本ずつ終わらせていきました。
それでも、どうしても期限までに終わらない業務が、1〜2本残りました。
この業務を抱えたまま、「辞めます」と言っていいのか。
管理技術者のまま、辞めても大丈夫?
会社に伝えたのは、辞める3か月前
僕が会社に辞めると伝えたのは、辞める約3か月前です。引き継ぎなどの準備に必要な期間から考えて、それより早く言う必要はない、と判断しました。
残った1〜2件は、主要な部分を自分で終わらせてから、軽いところだけを後任に引き継ぎました。辞めたあとも、その業務については質問に答えたり、手伝ったりしています。
管理技術者のまま辞めること自体は、できます。ただ、ある程度まで自分で終わらせておかないと危ない。これは強く思います。
辞める日は、業務の終わりから逆算する
振り返ると、僕が決めていたのは「いつ言うか」ではありませんでした。
辞める日は、退職届を出す日ではなく、手元の業務が終わる日から逆算して決める。
業務の終わりが見えていれば、伝える日は自然に決まります。僕の場合、それが3か月前でした。


「退職」は、管理技術者を代えられる理由に入っている
決まりの話も、少しだけしておきます。
多くの発注者が使っている設計業務の共通仕様書では、管理技術者は原則として途中で変えられません。ただし、死亡、傷病、退職、出産、育児、介護など、やむを得ない理由があるときは、同等以上の技術者に代えることができます。その場合は、発注者の承諾が必要です。手続きをするのは受注者である会社なので、辞める本人が発注者と話をつける必要はありません。
ポイントは「同等以上の技術者」とあるところです。後任が途中から受け取れる状態になっていないと、会社も発注者も困ります。本人にできるのは、後任が受け取れるところまで、自分で進めておくことです。
※仕様書の文言は、発注者や年度によって違うことがあります。担当している業務の特記仕様書もあわせて確認してください。
「今辞められたら会社が困る」と言われた同業者
僕と同じように、構造系のリーダーで技術士を持ち、技術提案型のプロポーザルの業務も最前線でやっていた同業者から聞いた話です。
彼は辞めたいと伝えたとき、「今辞められたら会社が困る」と言われました。1年たっても、2年たっても了承されず、最後は半ば強引に辞めています。辞めた会社からの仕事は、もらっていないそうです。辞め方も、少しは関係しているのかもしれません。
仕事を抱えたまま切り出すと、会社は引き止めるしかありません。辞める日を業務の終わりから決めておくのは、自分のためだけでなく、辞めたあとの関係を残すためでもあります。
決まりのうえでは、辞められます。でも本当に怖いのは、会社に切り出す、その瞬間ですよね。
辞めると伝えたら、会社とこじれない?
最初に伝えたのは、直属の部長だった
最初に話したのは、直属の上司の部長です。「独立したいと思っています」と、はっきり伝えました。部長は、驚いた様子もありませんでした。辞めるときに、嫌がられたり、「取引先を持っていくな」と言われたりしたことも、特にありませんでした。
社長にも伝えると、快く受けてもらえました。かけてもらった言葉は、「いろいろ応援するから大丈夫だよ」でした。
退職金は、30万円だった
その会社には、7年勤めました。年に10本、年間約6,000万円の業務を回して、売上にはかなり貢献してきたつもりでした。
退職金の中身を聞いたのは、辞めるときです。
30万円。しかも現金ではなく、確定拠出年金でした。僕の給料から毎月2,000円ずつ積み立てて、そこに会社の分も乗せたもの。この会社では、それが退職金の代わりだったんです。60歳になるまで、引き出すこともできません。
「応援するから」と言ってもらって、ふたを開けたら、これでした。
「少なっ!」
正直、がっかりしました。
それでも、僕は何も言わずに、そのまま受け取りました。
独立したあとも、この会社から仕事をもらうことになる。そう考えたからです。
辞めた会社は、いちばん近い元請けになる
あのとき文句を言っていたら、どうなっていたか。
辞めた会社は、独立して最初の、いちばん近い元請けになります。実際に、独立してすぐに仕事をもらい、今も毎年お付き合いが続いています。
円満に辞めるためにいちばん大事なのは、在籍していた会社と喧嘩しないことです。
あの30万円を黙って受け取ったのは、辞めた会社が、独立したあとのお客さんになると分かっていたからです。元請けに応援されながら辞めるための伝え方を、無料の小冊子『独立前兆』にまとめました。
辞めた会社が、独立後にどう助けてくれたかは、仕事のルートの記事に書いています。
関連記事:建設部門の技術士が独立して仕事を取る3つのルート|営業は1回だけ
前の会社のお客さんから、仕事をもらってもいいの?
今の会社のお客さんに営業したら、損害賠償を請求されたりしませんか?
そこは、一番こわいところですよね。お世話になった会社と、もめたくはないですし。
「仕事をください」とは、言っていない
僕は、前の会社のお客さんに、自分から「仕事をください」とは言っていません。前の会社と、取引先の扱いについて話し合ったり、取り決めをしたりしたこともありません。
お客さんやメーカーの方には、辞めるときに退職のあいさつメールを送っただけです。一人ずつ先に連絡を入れるようなことも、していません。それでも独立したあと、会社員時代の先輩や同僚、メールを送った相手から仕事が来ました。「お祝いに1本」と言ってくれた人もいます。
仕事は、会社の看板ではなく、その人の名前に付いてきます。僕の場合、メインの取引先は4社。それで十分に回っています。
関連記事:技術士で独立か転職か迷ったら|仕事は会社でなく人に付く
ただし、辞める前に一度は確かめておいてほしいことがあります。競業避止の約束です。
競業避止の誓約書は、どう考えればいい?
僕は退職のとき、競業避止(辞めたあとに同業をしない約束)の誓約書にはサインしていません。会社から求められることもありませんでした。もし前の会社から仕事をもらうなら、筋は通しておいたほうがいい。僕は、そう思っています。
ただ、会社によって扱いは違います。誓約書がなくても、就業規則に定めがあれば問題になることがあります。期間が長すぎる、地域が広すぎるなど、行き過ぎた内容は無効とされやすい一方で、何でも無効になるわけではありません。気になる方は、就業規則と誓約書を読み直して、必要なら弁護士に相談してください。
それから、これは競業避止とは別の話です。前の会社のデータや営業秘密を持ち出すこと、社員を強引に引き抜くことは、約束があってもなくてもアウトです。技術士には、辞めたあとも続く秘密保持の義務も、法律で決められています。
辞めたあとに、前の会社の設計ミスが見つかったら?
辞めたあとも、当時の仕事について問い合わせが来ることはあります。設計の業務が終わって2〜3年たってから工事が始まったり、会計検査が入ったりすると、そのときに質問が来るんです。そういう問い合わせには、誠心誠意対応しています。辞めたあとの対応も、辞め方の一部だと思っています。
責任そのものは、在籍していた会社が負うものだと考えています。会社員のときの設計は、発注者との契約が会社の名前で結ばれているので、外に対して責任を負うのは基本的に会社です。辞めたからといって、新しく責任が生まれるわけではありません。
逆に、独立したあとの仕事は、全部が自分の会社の責任になります。そこへの備えは、別の記事でくわしく書きます。
一人より、誰かと二人で独立したほうが心強い?
後輩と二人で独立するのが夢なんです。一人より、心強いと思って……。
その気持ち、よく分かります。僕も、一人で始めるのは不安でした。
先輩に誘われて、二人社長で始めた
僕も最初は、一人で会社をやるつもりでした。ところが、ちょうど同じころ、独立を考えていた先輩から「一緒にやらないか」と誘われました。「手続きや事務がたくさんあって大変だから、絶対に二人のほうが楽だよ」とも言われました。不安があったのは事実で、僕はその誘いに乗りました。
迷いはありました。そのころ、あるセミナーで開業の相談をしたら、講師の方に「二人社長は絶対うまくいかない」と言い切られたんです。それでも、もう走り始めていて、引き返せませんでした。嫁にも「一人でもいいんじゃない?」と言われましたが、それも押し切ってしまいました。
始めてみると、すぐに歪みが出ました。売上は僕のほうが多いのに、給料は同じ。何をするにも相手の顔色をうかがい、休みたいときに休めない。会社員のころより、不自由でした。
結局、1年半ほどで解散しました。数百万円の損をしました。それでも、一人になったときは、ほっとしました。やっと独立できた、と思ったのを覚えています。
不安を理由に組むと、自由を手放す
不安を理由に誰かと組むと、自由と判断を手放すことになる。独立は、一人で始めたほうがいい。
二人で始めれば、心強いかもしれません。でも、対等な二人というのは、なかなかありません。どちらかが先輩だったり、どちらかが多く稼いでいたりします。そのずれは、あとから必ず出てきます。
仕事も判断も、最初は全部一人でやる。それが一番安全で、一番自由だと、今は思っています。
辞めて失敗したら、もう後戻りできない?
辞めた会社からは、独立してすぐに仕事をもらい、今も毎年お付き合いが続いています。そして独立して何よりよかったのは、時間が自分のものになったことです。
でも、辞める前の僕は、残業が当たり前で、家族と過ごす時間が足りない、どこにでもいる会社員でした。会社への不満は飲み込み、30万円の退職金にも黙りました。誰と始めるかを間違えて、数百万円の損もしています。
特別なことは、何もしていません。業務の終わりから辞める日を決めて、会社と喧嘩をせずに辞めた。やったのは、それだけです。
それに、独立は退路を断つ大勝負ではありません。設計の仕事は、在庫も店舗も要らないので、大きな借金を背負うことはまずありません。うまくいかなかった人も、会社員に戻って、普通に活躍しています。
だから、順番さえ守れば、あなたにもまねできます。辞めた会社から、辞めてすぐに仕事が来る。僕に起きたのは、そういうことでした。
独立したあとのお金の話は、こちらに書きました。
関連記事:技術士の独立後の年収は?手取りが増えない4つの理由
辞める半年前から、何をしておけばいい?
半年前から、準備を始める
辞めるなら、半年くらい前から準備するのがおすすめです。会社をどうするか決めながら、その間に仕事の種をまいておきます。
知り合いの建設コンサルの技術者は、独立を迷っていたころに「管理職になってほしい」と言われ、管理職になれば辞めどきを逃すと考えて、その時点で辞めて独立しました。立場が上がるほど辞めにくくなるので、昇進の話が来たら、それが決めどきです。
僕が在籍していた会社は、副業禁止でした。なので、会社は辞めてから作りました。ただ、会社員のうちから税理士に会社を作ることを伝えて、準備は先に進めていました。会社の作り方や手続きは、別の記事でくわしく書きます。
関連記事:技術士の独立に必要な手続きは?一人社長が株式会社を作った順番
関連記事:技術士の副業・在宅CAD、発注する側から見た現実と単価
家族には、気持ちではなく数字で話しました。その夜のことは、こちらに書いています。
関連記事:「会社辞めて独立するわ」と打ち明けた夜。妻の予想外すぎる一言
辞める前に、やること3つ
- 手元の業務を数えて、終わる日から辞める日を決める(僕は3か月前に伝えました)
- 就業規則と誓約書を読み直す(競業避止・副業)
- 自分の名前と仕事を知っている人を、思い出しておく
まとめ:辞め方で、独立後の最初の仕事が決まる
会社を辞めて独立し、10年ほどたちました。辞め方で大事なのは、この3つです。
- 辞める日は、業務の終わりから逆算する
- 辞めた会社とは、喧嘩しない。いちばん近い元請けになる
- 独立は、一人で始める
会社を辞めた翌朝、目が覚めて最初に思ったのは、「あれ、今日何しようかな」でした。上司も、決まった出社時間もない。全部、自分で決める毎日の始まりです。
独立は、あなたが思っているより、ハードルは低いです。
辞める日を決めるのは、まだ先でかまいません。手元の業務表を開いて、一番遅く終わる業務がいつなのか。そこに、印をつけるところから始めてみてください。
辞める前から、独立のあとは始まっている
辞めた会社がお客さんになるかどうかは、会社員のうちの仕事ぶりで決まります。独立できる技術者に出る「前兆」を、無料の小冊子『独立前兆』にまとめました。今の立ち位置がわかる「10問の独立診断チェック」も入っています。
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※本記事は2026年10月時点の、僕個人の経験にもとづいています。金額はすべて税抜です。競業避止や契約の個別の判断は弁護士などの専門家に、管理技術者の交代は担当業務の仕様書をご確認ください。
※退職金の30万円(確定拠出年金)は、のちに条件にあてはまったため、手数料を払って引き出しました。確定拠出年金は原則として60歳まで受け取れず、早く受け取れるのは、辞めた時期やその後の働き方などの条件にあてはまるときだけです。くわしくは加入先の運営管理機関にご確認ください。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。








