技術士の独立に必要な手続きは?一人社長が株式会社を作った順番

こんにちは、ガブです。

僕は会社を二度作っています。一度目は、人と組んで、700万円を借りました。二度目は、一人で、一円も借りずに始めました。

独立する日が決まると、次に気になってくるのが手続きです。会社はどう作るのか。税務署や年金事務所には、何を出すのか。

読者

会社を作る、税務署に出す、保険を切り替える……。やることが多すぎて、何から手をつければいいのか分かりません。

ガブ

役所の書類って、名前を見ただけで気が重くなりますよね。

この記事を読み終えるころには、自分でやること、税理士に任せること、やらなくていいことが分かれて、手続きを理由に独立を先延ばしにしなくてよくなるはずです。

まずは、一度目のときの話からさせてください。


独立の手続きって、一人でできるもの?

不安だったのは、手続きより「一人で回せるか」

「手続きが大変だから、二人のほうが楽だよ」。そう誘われて、先輩と二人で会社を始めた話は、辞め方の記事に書きました。

関連記事:技術士の独立、辞め方は?建設コンサルを円満に辞めた順番

会社を作るのは初めてだったので、手続きにも少しは不安がありました。でも、本当に大きかったのは別の不安です。独立したあと、仕事を自分一人で回していけるのか。

二人なら、なんとかなる。あのころの僕は、それが一番安全な道だと思っていました。

個人事業主と株式会社、最初はどっちがいい?

二度目も、迷わず株式会社にした

二人での会社は、1年半ほどで解散しました。一人で作り直したときも、迷わず株式会社にしています。一度作っていたので、二度目の設立はすぐに終わりました。

株式会社にした一番の理由は、社会的な信用です。元請けから見ると、個人に頼むより、会社に頼むほうが安心できます。インボイスの登録も、仕事を受けるうえでは前提になります(このあと書きます)。

会社として積み上げた信用は、あとからも効きます。独立して何年もたってから、本業とは別の事業で融資を受けたときも、すんなり借りられました。

個人事業主から始めても、悪くはないと思います。ただ、僕は最初から会社を勧めます。税金の面での目安は、手取りの記事に書きました。

関連記事:技術士の独立後の年収は?手取りが増えない4つの理由

株式会社を作るのにかかったお金

株式会社を作るのにかかるお金は、今の制度で計算すると、合計で20万〜25万円ほどです。

一番大きいのは、法律で決まっている費用です。登記の登録免許税が最低15万円。定款(会社の決まりごと)の認証に1.5万〜5万円。紙の定款だと4万円の印紙も要りますが、電子定款なら要りません。

僕は行政書士に3万円ほど払って、手伝ってもらいました。そのほかは、こんなものです。

  • 会社の印鑑:ネットで3本セットを注文して、1万円もしませんでした
  • 名刺:1,000円ほど
  • ロゴなど:知り合いのデザイナーに、1万円ほどで作ってもらいました

もうひとつ、会社のメールがあります。僕は独自ドメインのメールに、毎年7,000円ほど払っています。ドメインは何でもいいですし、無料のGmailやoutlook.comで仕事をしている人もいます。僕はこだわりがあって、「co.jp」が欲しかったんです。

会社を作ったら、どこに何を出す?

税務署の届け出は、税理士と一緒に出した

会社を作ったあとの届け出は、自分で一つずつ調べてはいません。税理士に相談して、言われたとおりに出しました。

全部を覚える必要はありません。自分で気をつけるのは2つだけです。年金事務所への届けは5日以内と、期限が短いこと。技術士会への届けは税金の手続きではないので、自分で出すこと。税務署への届け出は、税理士が教えてくれます。

一人社長の場合、主に出すのは次のものです。

出す先書類期限
税務署法人設立届出書設立から2か月以内
税務署青色申告の承認申請書原則、設立から3か月以内(※)
税務署給与支払事務所等の開設届出書開設から1か月以内
税務署インボイスの登録申請書1期目が終わるまでに出せば、設立日にさかのぼって登録できる
都道府県・市町村法人設立の届け出自治体ごとに違う(10日〜15日と短いところもある)
年金事務所健康保険・厚生年金の新規適用届と資格取得届5日以内
日本技術士会登録事項(事務所)の変更届遅滞なく

社会保険は、社長一人でも入る

会社にすると、社長一人でも、健康保険と厚生年金に入ります(報酬を受け取る場合)。僕も最初から協会けんぽに入りました。

最初の手続きは、やり取りが多そうだったので、自分ではやっていません。設立のときだけ、嫁にスポットでパートに入ってもらって、任せました。実際には、やり取りは1〜2回で済み、楽でした。電話のやり取りを聞いていると、相手の方も懇切丁寧に教えてくれていたようです。社会保険の手続きは、ハードルだと思わなくて大丈夫です。

技術士の登録も、変わる

忘れやすいのが、技術士の登録です。技術士は、登録した事務所の名前や所在地が変わったら、日本技術士会に届け出ることになっています(技術士法35条)。会社員のうちは、勤め先を事務所として登録している人が多いと思います。

僕も独立したとき、自分の会社に事務所を変える届けを、自分で出しました。事務所の変更だけなら、手数料はかかりません。自分の会社を事務所にするときは、会社が発行する証明書を付けます。

税理士は、いつ、どうやって頼めばいい?

口座は、税理士の一言で作れた

一度目のとき、僕が一番不安だったのは「仕事を一人で回せるか」でした。二度目に一人で会社を作ったとき、最初に組んだ相手は、税理士です。知り合いに紹介してもらった方で、独立して最初の月から、ずっとお願いしています。

最初に相談したとき、「口座、作るよね?」と聞かれました。作りたい銀行を伝えると、「わかった。じゃあ、銀行に行って」。行ってみると、すんなり口座が作れました。

できたばかりの会社には、まだ実績がありません。銀行の審査で、法人の口座が作りにくいこともあると聞きます。税理士は銀行とのつながりが強いので、こういうところで本当に助かりました。

決算の月をいつにするか、自分の給料(役員報酬)をいくらにするか。こういうことも、自分で悩む前に聞けました。

税理士にかかるお金

税理士の費用は、毎月1万円に、決算の月と年末調整の月にそれぞれ3万円ほど。年間で約18万円です。

僕がやるのは、領収書の整理と、月に一度、数枚の書類を渡すことくらいです。自分でやれなくはないと思います。でも、経理は僕の専門ではありません。その時間を設計に使ったほうが、ずっと得です。

一度目は、人と組みました。二度目は、税理士と組んで、一人で始めました。

一人で回すのは、設計の仕事だけでいい。手続きや経理は、任せる相手を決めればいいんです。

組む相手は、一緒に経営する人ではなく、税理士でよかった。

お金は、いくら用意しておけばいい?

公庫の700万円で、ほっとした

一度目の会社を作るとき、最初の半年は売上がないかもしれない、と考えました。借りなければ、資金ショートが目に見えていました。

それで、日本政策金融公庫に融資を申し込みました。事業計画書を自分で書いて、面談に行くと、すんなり通りました。担当の方は、もっと貸せそうな口ぶりでした。

700万円。社員の給料の、半年分です。

これで当面は大丈夫だと、ほっとしました。

でも今振り返ると、社員を雇わずに一人で始めていれば、借りる必要はなかったんです。

二度目は、一円も借りなかった

一人で作り直したときは、銀行からも公庫からも借りていません。

独立したときの貯金は、300万〜400万円ほどでした。多くはありません。それでも、生活費の半年分くらいはありました。

半年分というのには、理由があります。設計の業務は、工期が短くて1か月、長いと6か月ほど。元請けからの入金は、そのあとです。最初の年は、仕事を受けても、お金が入るまで最長で半年ほど見ておく必要があります。

受注してから工期は1〜6か月、入金はそのあと。最初の年は、仕事を受けてもお金が入るまで最長で半年ほど。その間を、生活費の半年分の貯金でしのぐ

一人社長なら、会社のお金が足りない月は、自分の給料を未払いにして、生活は貯金でまかなえば済みます。僕も、払えない月はそうしました。このやり方は、税理士にも確認しています。

用意するお金は、借りられる額ではなく、最初の入金までの半年をしのげる額で決める。一人なら、それは貯金で足りることが多いです。

あの700万円は、一人なら要りませんでした。でも、一人で、借りずに始めて、本当に仕事は回るのか。会社員のうちに確かめられる「独立してもやっていける前兆」を、無料の小冊子『独立前兆』にまとめました。

建設コンサルタント登録や入札参加資格は、要る?

読者

登録がないと、仕事を受けられないんじゃないかと心配で……。

ガブ

登録や資格の話は、調べるほど不安になりますよね。

僕は、建設コンサルタント登録を一度もしたことがありません。下請けとして元請けから仕事を受けるなら、登録は要りません。登録がなくて困ったことも、一度もありません。外注先として、入札参加資格を求められたこともありません。

登録は任意で、登録がなくても建設コンサルタントの仕事はできます。登録するには、部門ごとに常勤で専任の技術管理者(原則、その部門の技術士)を置くことと、会社なら資本金500万円以上、自己資本1,000万円以上が必要です。発注者から直接仕事を受けたい場合は、狙う発注者の条件を確認してください。

僕が元請けにならず、下請けで仕事を受けている理由は、仕事のルートの記事に書いています。

関連記事:建設部門の技術士が独立して仕事を取る3つのルート|営業は1回だけ

元請けに聞かれるのは、インボイスと労災

元請けからよく聞かれるのは、インボイスの登録です。登録していない相手に外注すると、元請けが消費税の分を余計に負担することになります。だから「登録していますか?」と聞かれます。僕は登録しています。

会社を作った最初の期が終わるまでに申請すれば、設立した日から登録を受けられます。

僕が独立したころは、まだインボイスの制度がありませんでした。資本金1,000万円未満の新しい会社は、原則として最初の2年は消費税を納めなくてよく、正直、かなり助かりました。

でも今は、インボイスに登録すると、その時点から消費税を納める側になります。元請けから登録を求められることが多いので、今から独立する人は、最初から消費税を納める前提で単価を決めておいてください。

労災も聞かれることがあります。社長は、もともと労災の対象外です。従業員のいない一人社長なら、2024年11月から「特定フリーランス事業」として特別加入できるようになりました(従業員を雇っている場合は、「中小事業主等」という別の枠になります)。僕は入っていませんでした。強制されたことはありませんが、元請けと一緒に現地調査に行くときは、労災に入っていることが条件になっていることがあります。

保険料は、選ぶ金額によって年4,000円〜2万7,000円ほど。ほかに、加入の窓口になる団体の会費が年6,000〜7,000円ほどかかります。申し込みは、国が認めた加入団体にネットでできます。受けた仕事のための現地調査も補償の対象になるので、現場に出ることがある人は、入っておくと安心です。

仕事道具と契約は、何をそろえればいい?

ケチらないのは、パソコンだけ

僕は自宅で仕事をしています。事務所は借りていません。

道具で一番お金がかかるのはCADで、年間7万円ほどです。CADはどれでもかまいません。P21に変換すれば、元請けとやり取りできます。解析ソフトは持っておらず、必要なときは借りるか、知り合いに頼みます。

ケチらないほうがいいのは、パソコンです。スペックで、仕事の速さがまったく違います。最初から、高性能なものを用意してください。

病気やけがへの備えとして、保険にも会社で2〜3本入っています。経費としての扱いは保険の種類によって違うので、入る前に税理士に確認してください。

注文書は、元請けが出してくれる

元請けとは、注文書や契約書を必ず交わします。こちらから言わなくても、元請けの側で必要なので、必ず出てきます。そのおかげで、代金が払われなかったことはありません。

見積書と請求書は、ネットにある無料のテンプレートを、自分用に直して使っています。初めて見積書を出したときは、妙に緊張しました。見積書に何を書くかは、単価の記事に書いています。

関連記事:技術士の外注単価は時給5,000円?見積書7枚で見る単価の決め方

手続きでつまずいたら、独立は失敗する?

手続きでつまずいて、独立が失敗することは、まずありません。僕の場合も、税理士と嫁に手伝ってもらって、手続きはどれもすんなり終わりました。

今の僕は、手続きのことをほとんど考えていません。月に一度、税理士に数枚の書類を渡すだけ。残りの時間は、設計と家族に使えています。

でも、一度目の僕は、そう思えていませんでした。一人で回せるかが不安で人と組み、一人なら借りなくてよかったお金を借りました。始めてみると、手続きは、思っていたほどのハードルではありませんでした。

二度目にやったことは、多くありません。株式会社を作って、届け出は税理士に任せて、半年は貯金でしのぐ。役所の書類を、全部覚えたわけではありません。

任せる相手が決まれば、あとは図面を描くだけです。手続きに振り回されず、設計と家族に時間を使える毎日は、そこから始まります。

関連記事:独立して家族との時間は増える?出張を6泊7日の家族旅行にした話

辞める前に、何をしておけばいい?

辞める前に、やっておくといいのは次の3つです。

  1. 会社員のうちに税理士を決めて、会社を作ることを伝えておく
  2. 生活費の半年分があるか、数えておく(入金まで最長半年)
  3. 仕事に足りるパソコンとCADを、決めておく

会社を作ったあとは、届け出もインボイスも、税理士と一緒に出せば大丈夫です。技術士の事務所の変更届だけは、忘れずに自分で出してください。建設コンサルタント登録と入札参加資格は、下請けで仕事を受けるなら、後回しで大丈夫です。


まとめ:手続きは、一人で抱えなくていい

独立の手続きで大事なのは、次の3つです。

  1. 会社は、最初から株式会社にする
  2. 手続きは、最初に税理士を決めて任せる
  3. お金は、最初の入金までの半年をしのげるだけあればいい

手続きのために、誰かと組む必要はありません。

まずは、生活費の半年分がいくらになるか、紙に書き出してみてください。それが、独立の準備の最初の一歩です。

会社を作る前に、確かめておきたいこと

手続きは、税理士に任せれば進みます。でも、独立してから仕事が来るかどうかは、会社員のうちの仕事ぶりで決まります。独立できる技術者に出る「前兆」を、無料の小冊子『独立前兆』にまとめました。今の立ち位置がわかる「10問の独立診断チェック」も入っています。

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※本記事は2026年10月時点の制度と、僕個人の経験にもとづいています。金額はすべて税抜です。設立費用の合計は、今の制度での目安です。税金・社会保険・登記の個別の判断は、税理士・社会保険労務士・司法書士・行政書士などの専門家にご確認ください。制度は毎年のように変わるので、最新の内容は国税庁・日本年金機構・日本技術士会などのサイトでご確認ください。

※青色申告の承認申請の期限は、正確には「設立の日以後3か月を経過した日と、最初の事業年度が終わる日の、いずれか早い日の前日」までです。2027年1月からは、青色申告の承認申請書と法人設立届出書を1枚の様式でまとめて出せるようになります。

※インボイスの2割特例は、2026年9月30日を含む課税期間で終わりました。2027年分・2028年分の3割特例は個人事業者だけが対象で、会社は使えません。

※日本政策金融公庫の創業向けの融資は、今は「新規開業・スタートアップ支援資金」という名前です。2024年4月から、自己資金を1割以上用意するという要件はなくなりました。ただし審査では、自己資金や事業計画をしっかり見られます。僕が借りたのは、この見直しより前です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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