ガブリエル・やんちゃボーイである。
ある日から主人の様子がおかしくなった。
何かを見てはニヤニヤしている。
何かを調べてはため息をついている。
嫁さんと何か話している。
そして頻繁にこう言う。
「船が欲しい。」
意味が分からない。
猫は基本的に水が嫌いである。
なのになぜわざわざ大量の水の上へ行きたがるのか。
理解に苦しむ。
主人の話によると、
昔から釣りが好きだったらしい。
魚が欲しいのかと思った。
だが違った。
主人は魚が欲しかったわけではない。
どうやら沖へ行きたかったらしい。
さらに意味が分からない。
ある日。
主人と嫁さんがどこかへ出かけた。
帰ってきた二人は妙に静かだった。
そして夕食の時、
主人が言った。
「買うか。」
嫁さんも言った。
「買おう。」
何を買うのかと思った。
船だった。
百七十万円らしい。
百七十万円。
俺の高級缶詰が何個買えるのか計算する気にもならない。
しかも聞けば、
まだ免許を持っていないらしい。
普通は免許を取ってから買うものではないのか。
主人は言った。
「後から取ればいい。」
相変わらずである。
独立した時もそうだった。
主人は昔から、
走りながら考える。
猫から見ると危なっかしい。
だが意外と何とかしてしまう。
数か月後。
主人は船舶免許を取った。
そして初出港の日が来た。
主人は朝から落ち着きがない。
子供より落ち着きがない。
たぶん遠足の日の小学生より落ち着きがない。
そして海へ出て行った。
その日は帰ってくるのが遅かった。
玄関が開く。
主人が入ってくる。
顔を見た瞬間に分かった。
めちゃくちゃ楽しかったらしい。
人間は面白い。
宝くじが当たった時の顔。
旅行から帰った時の顔。
美味しいものを食べた時の顔。
色々ある。
だがその日の主人の顔は少し違った。
何かを手に入れた顔だった。
主人はずっと言っていた。
「すごかった。」
「最高だった。」
「自由だった。」
自由。
主人は独立してから、
時々その言葉を使う。
猫にはよく分からない。
俺は最初から自由だからだ。
だが一つだけ分かる。
あの日から主人は変わった。
船の話をする時、
いつも少年みたいな顔をする。
そして船には、
名前を付けた。
フェリックスヤンチャボーイ。
聞いた瞬間に思った。
またか。
また俺の名前を使っている。
ハンドルネームにも使う。
船にも使う。
主人は本当に語彙が少ない。
だが少し嬉しくもあった。
どうやら主人は、
大切なものに俺の名前を付ける癖があるらしい。
まあ悪くない。
ちなみに船を買ってから、
主人はさらに海へ行くようになった。
そしてさらに家にいなくなった。
そこは気に入らない。
キャキャキャキャ。
— ガブリエル・やんちゃボーイ 🐾
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